女は男を書けない、一生。
いったい誰が言った言葉だっただろうか。
私はその言葉をふと思い出したのだった。
まだまだ若い十代の頃、ほんの少し心を寄せていた女の子がいたのだけれど、その子が学業とは別のところで物書きをしていた。とは言ってもあくまで趣味での話である。
その子の口からはよく、町田康や太宰治、山田詠美、森見登美彦らの名前が発せられていた。夢野久作のドグラ・マグラの表紙をいやに覚えている。
私は森見登美彦の書籍を一冊借りて読んだことがある。文学に触れることに対して強い関心や憧れはあったのだけど、いかんせん文章を読むことが苦手であった。そこをどうにか重い腰を上げて読み始めることにしたのだ。本を借りてから返すまでに優に半年は経っていたように記憶している。
借りた本は『夜は短し歩けよ乙女』だったのだけれど、物語の面白味や楽しさなどは正直なところあまり解らず、その代わりに、読み進めていく面白さと物語を読み終えてしまう寂しさというものを強く感じたのだった。
そういった感覚は生まれて初めてのことだったのでとても良い経験になったと思っている。本を読むことは必ずしも退屈なことではないのだと。
そのきっかけをくれた女の子には本当に感謝している。
数年後、その書籍は映画化され、アニメーションと声優の力も手伝ってか、私はまんまと物語の面白さに引き込まれたのであった。
文章でも面白さを体感してみたい、という気持ちがふくふくと大きくなり、そうしてもう一度この本を手に取るに至ったのである。
森見登美彦が描く女性、とてもキャッチーで格好良く愛らしいではないか。そういう乙女に憧れる心がちらつくのもまた事実なのだ。